Kompendium - Beneath The Waves

さて、アルバムは無事11/20に届いたのですが、その後一週間も経ってしまいました。
その間何をやっていたかと言いますと、それはもう、本作を聴いていました。通常の生活サイクル意外に他の事をしていた記憶がありません。
言い換えれば、そこまではまり込むほどの作品だと言えるでしょう。個人的には、アルバムを二週続けてフルで聴くというのはあまり経験した事のない行為です。

実際にCDを手にして真っ先に感じたのがそのパッケージングの凄さでした。
7インチ・ゲートフォールド・スリーヴの存在感はかなり強烈で、これを作るために一ヶ月近く発売が延期したと言われたら納得せざるを得ない気がしました。
中を見るとアルバムのストーリーのベースとなる文章が記されており、まずはこれを見て、歌詞を見ながら聴く事がアルバムをしっかり味わうためには必要になります。

作品の内容ですが、一言で言うならケルトとオーケストラを取り込んだシンフォニック・ロック。ミュージカル的な要素もあり。
ヴォーカリストは8人(加えて3組)、ギタリストは9人(Robを含めると10人)という豪華な編成で制作されていますが、キーボードとベースはRob本人が一手に担っているため、そこは彼のプロジェクトとしては豪華でも何でもなかったりします。とはいえ演奏自体は流石の内容ですが。
更に、事前情報では公表されていなかった管楽器およびソロ弦楽器奏者も参加。オーボエやフレンチホルンといった悲しげな演出を得意とする楽器が随所で用いられ、印象的な効果を上げています。
そして、中でも目を引くのが2曲を除いて全ての曲でヴォーカルを取るSteve Balsamo。
単に歌唱力が優れているのみならず、語り部としての圧倒的な説得力、存在感が作品全体に力を与えていると思います。それは容易に今年のベスト・シンガーになり得ると思っていた予想すら上回るものでした。
もう一人の主役、Angharad Brinnの声は、MagentaのChristinaと比べると清楚で透明感のあるものですが、低いトーンで歌うところではChristinaのように聞こえる瞬間もあり、 この表現がRobの指向なのかな、とも感じます。
勿論、ギタリストも各々個性のある演奏を見せ、音楽に華を添えています。

Magentaと比べてどうなのかという話ですが、Magentaの作品(特に"Home")との共通点はかなり強いと感じました。
加えてゲストやオーケストラで表現が強化されているのですが、ではMagentaの上位互換的な内容かと言えば当然そんな事はなく、ロックとしてのアクティヴな表現はあちらに軍配が上がります。
それは特にキーボードに顕著で、特徴的だった唸るシンセはたまに伴奏程度に使われる程度となっています。もうひとつの特徴であったベル系のシンセは多用されていますが。

アルバムは潮騒、海鳥の鳴き声、そして語りから幕を開けます。

1.Exordium
最初の楽音はアイリッシュ・ホイッスルによるテーマ。これがアルバム全体のメインテーマとなります。続けてハープが受け、オーボエ(参加が公表されていなかったので、TEPで聴いたときはソプラノサックスかと思いました)へと繋がります。
そしてオーケストラが入るとテーマはイリアン・パイプス、ペダルスティールへと引き継がれ、Nick BarretのギターからShan Cothiによる本作最初のヴォーカルへ。
演奏が一端落ち着くと、いよいよSteve Balsamoが歌い始めます。"One small Step..."
Angharad Brinn演じるLillyとの対話を経て演奏が高まると、性急な6/8のリズムでSynergy Vocalsによる第二テーマへ。
ドラムはGavin Harrisonらしい引き締まったプレイ。クワイアから第一テーマが復活、Balsamoが高らかに歌い上げるラストへ。
普通ならこの一曲でストーリーを作れるくらい濃密でドラマティックな曲です。

2.Lost
アコースティック・ギターとフレンチ・ホルンに導かれる、物悲しいバラード。
少しずつ楽器が増えて盛り上がっていくわけですが、特に間奏のHywel Maggsによるギターソロは会心の演奏だと思います。
そのまま情感的に進むかと思いきや少しひねったアンサンブルを挟みつつ、Neil Taylorのギターがリードするパートへ(最初の広告映像で使われていた演奏です)。

3.Lilly
Steve Hackettのナイロンギターが伴奏するバラード。
Hackettのギターはハープにも近い上品な音色。チェロも見事な演奏でヴォーカルを支えます。
後半にリズムとエレキギターが入る構成もあわせ、Magentaの"Anger"にとても近い感覚。

4.Mercy Of The Sea
強烈なクワイアによる導入。前曲の心地よさに浸っていると一気に叩き起こされます。
ケルト風のアンサンブルを交え、Balsamo演じるConnorが力強く歌い上げるロック・バラードという趣。
最後にイリアン・パイプスがリードするインストがあり。

5.The Storm
雷雨。嵐の接近を思わせるストリングスのリフにギターが加わり、まさに荒れ狂う嵐のような激しいアンサンブルに。
ここのギターはおそらくJohn MitchellとHywel Maggs。フレンチ・ホルン限定なのでパンチはさほどでもないが、ブラスが入るとビッグバンド的な雰囲気もあります。
ヴォーカルパートは早口で切迫した様子。 更にクワイアやケルト・アンサンブル、Barry Kerrの歌などが目まぐるしく展開していきます。特に4分半からの演奏は短いですが非常に強烈。
祈るようなBrinnの歌、再びケルト・パートを経て、後半ではChris Fryの本作唯一のエレキ・ギターが大活躍します。曲調もあって、ここだけ完全にMagentaに聞こえます。
全体に展開が激しく、プログレらしさは本作で一番。 音楽的にもストーリー的にも、最初のクライマックスと言えるでしょう。

6.Beneath The Waves
アコースティック・ギターとヴァイオリンのアンサンブルによるケルティックなイントロですが、メインはNick Beggsのチャップマン・スティックが叩き出すグルーヴィなベースライン。
リズムの強調された上でヴォーカル、サックス、Neil Taylorのロックらしいギターが絡んでいくのですが、全体には淡々とした進行で独特の浮遊感がある気がします。
PVではCGのシーンだけが場面に即した内容だったのですが、場面音楽としての演出力が際立つ内容です。

7.Sole Survivor
波打ち際、一人だけ残された寂しさを表現したようなChris Fryのナイロンギターが迫る。
切ないバラードの前半に対し、"Exsordium"の第二テーマをリプライズする後半は若干明るさが出てくる。

8.Alone
タイトル通り、孤独が胸に染みるバラード。それ以上の表現は要らない。名曲。
色々なアレンジで奏でられる間奏のフレーズが切なく、胸を締め付けます。特にエンディングが涙もの。

9.Il Tempo È Giunto
ピアノ伴奏でRhys Meirionが歌う。完全にオペラの領域です。
ストリングスとクワイアが入って以降はロックのアルバムに入っている曲とは思えず、とても短いですがインパクト有り。

10.Moment Of Clarity
一転、ギターをフィーチャーしてロックらしさが戻ってくる。
音そのものは割と典型的なネオ・プログレッシヴ・ロックという感じですが、ミュージカルのハイライト・ナンバーを思わせるメロディと、もちろん歌唱そのものが品を高めていると思います。
Tensi Jonesのソウルフルなスキャット、Mel Collinsのサックスも一味違う印象を与えるのに貢献しているのでは。
ストレートな作りが決まってか、頭の中でスタッフロールが流れてきそうになります。
そしてエンディングはまたしても胸を締め付ける。何回こう言わせるつもりだ。

11.One Small Step
タイトルの通り、"Exordium"のヴォーカルテーマのリプライズ。
ただし、アンビエントなピアノ、キーボードと波打つベースがかなり雰囲気を変えています。リズムも四拍子に。
ギターはJakko Jakszyk。段々盛り上がってきたところで突然切れる。
ところでタイトルがDVDでは"Turn To The Sea"となっているようですが。

12.Reunion
なんとなく懐かしいようなピアノ。
落ち着いたデュエットから"Exordium"のテーマが回顧されると、そこから本作の特徴を全て盛り込んだようなクライマックスへ展開していきます。
ここはネタバレになってしまうので、是非ご自分で聴いて頂きたい。
ストーリー的には悲劇と言えるものですが、音楽的には見事な大団円だと思います。

合計67分、通して聴いた後には一本の映画を見たような感動と満足が得られるでしょう。
何より凄いのは、音によるストーリーの表現がとても上手い事。歌詞を知らなくても何となく話について行く事は出来るようになっています。
しかしながら、はっきり言えばそれでも本作は絶対にブックレットの歌詞を読みながら味わうべき作品です
本当の理解は歌詞がないと出来ないのは当然ですが、それ以上に音楽との相乗効果でストーリーに浸る事が出来るでしょう。
何より、それでこそ音楽でのストーリーテリングのうまさが際立つというものです。
そして、出来るだけ大きな音で聴いてみてください。それくらいして浸る価値のある作品です。
勿論それを差し引いて単純に音楽アルバムとして聴いても楽しむ事は出来る充実の内容。
胸を打つような、感動的な音楽を聴きたいという人には絶対のお勧め。
というより、メロディックな音楽なんて幼稚だと仰る自称音楽マニアか超絶技巧がないと落ち着かないメタルファン以外にこれが駄目という人が想像付かないのですが。

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