Mangeta - Chameleon

という事で、今更ながらMagentaの前作です。

本作の制作に当たってRob Reedは二つのタイプの作風、すなわち"Seven"のようなメロディックでシンフォニックな作風と"Metamorphosis"のようなハードで現代的な作風、の選択を求められたとしています。
結果として両者を合わせた大量のマテリアルが生まれ、そのうち後者の作風を取って結実させたのが本作"Chameleon"である……との説明が為されていたと思います。
今にして思うと前者はKompendiumとしてより大きなプロジェクトで進行していたため後者を優先した、と考えられなくもないですが、穿ちすぎでしょうか。

それはともあれ、本作はその通り"Metamorphosis"に近いハードな音で仕上げられています。
が、ひとつ大きな差異があり、それは楽曲が格段にコンパクトでポップになった事です。
最も長い曲で9分強というのはこれまでのMagentaの作品では最短であり、多くの曲は5分前後で構成的にもわかりやすくなっています。
だからといって作風が殺されたかと言えば勿論そんな事はなく、特徴的なメロディやコード進行、ギターやキーボードの演奏、何よりヴォーカルにMagentaの特徴はしっかりと生きております。


1.Glitterballは三拍子の疾走感が心地よい楽曲。オープニングナンバーとして見事な内容です。
中盤、Yesの"Sound Chaser"を思わせるギターソロからヴォーカル、シンセサイザーのソロと繋がる展開がハイライトでしょうか。

2.Guernicaはクラシカルなストリングスで幕開け(ここはChameleon Projectの先行配信ではカットされていました)。
ベースとドラムがシンプルながらドライヴ感満点のリズムで突き進む重々しい演奏がメインですが、ギターも巧みな表現で大活躍。
決して様々な要素を詰め込んだ内容ではありませんが、一曲の中での密度は凄まじいものがあります。

3.Breatheでは珍しくかなりハードロックな展開が見られます。
アコースティック・ギターのアルペジオが伴奏するバラード風の冒頭は「らしい」のですが、そこからのギターリフを交えた演奏は完全にハードロック、ギターの音とヴォーカルによってはヘヴィメタルにも聞こえるレベルのものです。
最後のギターソロなんてかなりギリギリ。
ただ、それでもそうならない辺りがMagentaの芸風になるかと思います。
それとRobの特徴の一つでもあるキーボードによる管楽器の音が、地味に良い仕事をしてます。

4.Turn The Tideで一転、ピアノとジャズ風な甘い音色のギターが夢見心地なバラード。
途中で発車ベルみたいなキーボードのアルペジオに導かれてリズムが入り、ゆっくりと盛り上がっていきますが、ここでの表現こそどの作品でも健在なRob Reed節でしょう。
全体にキーボードによる表現が見事で、ギター優勢の本作に彩りを添えていると思います。

5.Book Of Dreamsは本作随一の大作。
珍しくポストロック風なギターとピアノによる静かなイントロですが、リズムが入ってからの緊張感のある演奏はとてもMagentaらしく、魅力的です。
その前半だけでも充分なくらいですが、ギターソロを経てヴォーカルのエコーが漂う中ピアノソロ、クワイア、再びテーマへ、と繋がる展開は短いながらドラマティックの一言。
本作制作時点でKompendiumの制作も動いていますが、そこからのフィードバックもあったのではないかと思える内容です。

6.Reflectionsは"Revolutions"以来のChris Fryによるアコースティック・ギター・ソロ。
哀愁漂うフォーク風のメロディが心地よいです。

7.Rawで再びハードに方向転換。
全体的に前作に近い音ですが、ストレートで引き締まった展開は本作ならではでしょうか。
唸るシンセサイザーが全編にわたって目立ちまくっています。

8.The Beginning Of The Endの冒頭、妙なギターのコードに一瞬大丈夫かと思いましたが、すぐにメロディックに展開して一安心。
ドラムのセッション映像が公開されたときは想像していませんでしたが、全体にはバラードと言っていい内容です。
ただ、間奏のベースは正直ちょっと狙いを外し気味な感じも。

9.Redが今回最長の楽曲になります。
冒頭のギターはモダンロックというかエレクトロニカというか、とにかくMagentaにしては珍しい表現。
更にリズムマシンらしき音や深いエコーなど、今までの曲とは一味違う仕上がり。途中のシンセもこれまでのプログレ系ではなくテクノ系の音に聞こえます。
それを合図に走り始めるところは従来の作風に近いですが、ここでも若干ベースが浮き気味のような。
ラストは前作に引き続きコーラスとストリングスが加わってギターソロで大団円。
ただし、どちらかというと悲壮感の強かった前作と異なりどこまでも幸福感のある締めになっています。

アルバム全体としては「らしさ」をしっかりと残しつつも、新しい面を取り入れて音楽的な多彩さを示した好作品、という評価になるかと思います。
一つ一つの楽曲の出来や魅力は今までの作品に決して引けを取っていないのですが、どういう訳か少し地味な感じもしました。
幾つかの大作を除くと割と薄味というか、あまり強い主張がないように感じ、結果として何曲かだけが印象に残るというイメージに繋がっているのかも知れません(前述のようにどの曲も充分に良く出来た曲なのですが)。
というわけで、曲として特にお勧めは2、4、5。6もいい仕事だと思います。

Robはその後Kompendiumを完成させ、現在はもう一つのMagentaの新作に取り掛かっているところ。
更にCyanがライヴで復活を果たすなど、今年はトピックが多いです。
特に、おそらく彼の最高傑作になると思われるKompendiumを経て、Magentaがどんな作品を作ってくれるのかは非常に興味深いところ。
まだまだその中身は見えてきませんが、大きな期待を持たせるものがあります。

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