"Little Man"

今回はThe Pineapple Thiefの新作"Little Man"の詳細レビューです。

1."Dead in the Water"
ギターが唸るオープニングから少しずつ高まっていくポップロック。
タイトル通り水の中に浮いているような浮遊感と透明感がある。基本的にギター中心。

2."God Bless the Child"
民族風のチャイムのリズムにアコースティックギターとヴォーカルが重なって始まる七拍子の曲。
けだるい雰囲気から始まりメロトロンが流れる中間部を経て一気にテンションを高めて終わる。
この曲はおそらくBruceの奥さんの出産を控えた時期に作られたはず。

3."Wilting Violet"
透明なシンセサイザーにピアノが重なり、静かに始まるが進むにつれてヘヴィなギターも入る。
最後まで通して一つのテーマを繰り返していく。終始どこか遠くで響いているようなambient感もある。

4."Wait"
アコースティックなバラード。
前半は深い残響を生かした歌もの。後半は弦楽を大幅に取り入れたシンフォニー。前半の歌が一瞬戻って終わり。

5."Run A Mile"
三曲目のようなシンセサイザーから始まるが今度は機械が喋るようなシンセサイザーと本作中もっともヘヴィなギターが飛び込む。
七拍子の決めを時々挟んで進行する本作で一番(唯一?)エレクトリックなロック。
大胆なシンセサイザー使いも聴けるPineapple Thief定番スタイルの楽曲。


6."Little Man"
憂鬱で美しいバラード。サビは五拍子。
歌詞は間違いなく製作途中で亡くなったBruceの息子を意識したものだと思う。
"In my dreams, you have your mother's smile"の一節が特に印象的。

7."November"
アコースティックギターとストリングスを大きく取り上げたインスト主体の大作。
機械のように加工された声が随所で聞こえ、ギターとともに緊張感を高めるが、後半ストリングスが一気に解放するようなイメージ。
全体的に冷たく、儚げな印象を受ける。そういえばNovemberは死をイメージさせる月らしいが。

8."Boxing Day"
アコースティックギター弾き語りの美しく、悲しげなバラード。ヴァイオリンとピアノのサポートもいい。
ラヴソングのような歌詞だが、これも息子の事が意識されているのかもしれない。個人的に最お気に入り。
ヴァイオリンの間奏に続くサビの繰り返しが聞き所。

9."God Bless the Children"
シンセサイザーとエレキギター、ヴォコーダーをフィーチャーしたシリアスな一応インストゥルメンタル。
音の印象としては"Heavy Electronic"という感じ。本作の中ではかなり異色。

10."Snowdrops"
再びアコースティックギターの伴奏で切なく歌われるバラード。七曲目の変奏のようにも聞こえる。
僕らは舞い散る雪に過ぎないんだと歌う歌詞が泣かせる。
後半は手拍子にのってストリングスとともに高まっていくところがかなり印象的。

11."We Love You"
ソナーのような発信音、奇妙なシンセサイザーが緊張感を強調するヴォーカルパートから始まる大作。
アコースティックギター伴奏のメインテーマ部はファンには"Remember Us"を思い出させる。
後半はピアノがビートを作りギターがうめくように歌い上げる壮絶に美しいインスト。

丁度真ん中に当たるタイトル曲を境に、前半と後半で曲調がかなり分かれている印象を受けました。
前半は今までに近い音の指向をさらに洗練された形でみせる。
後半はぐっと情感的になってアコースティックなバラードを中心にした構成。
そしてどちらにしても今までと比べると沈み込むような暗い、憂鬱な調子が強いと感じました。
この内容には製作の途中で出産、そしてお子さんの死亡、という経験をされた事が少なからず影響しているのでしょう。
その前に作られたと思われる曲とそれ以降のものと思われる曲でかなり印象が違うような気がします。
既に新作の製作は始まっているようで、これがどのような内容になるのかとても「気になります」。
それと、今回は全体的にソロを少なくして全体演奏の比重を大きくしたように感じます。かなりソロが多かった前作と比べると特に。
(ブログを読むと前作でソロを長く入れた事に対する反省もあるみたいです)

結論として、素晴らしい出来ですが多くの人に勧めるには少し憂鬱すぎるかもしれません。
完成度自体は明らかに前作より高くなっているので、綺麗な歌ものが好きな人は一度聴いてみては。

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