Wintergatan

昨年時点で今年に発売スケジュールが組まれていたアルバムで一番楽しみにしていたのが、このWintergatanのデビューアルバムでした。
Wintergatanは元DetektivbyrånのMartin Molinが新たに結成したバンドであり、アコーディオンやグロッケンシュピール、ヴィブラフォン、そしてオルゴールの音を前面に押し出した音楽性を前身バンドから受け継いでいます。
一方で異なるところはピアノなどの典型的なキーボードサウンドがあまり目立たない事、リズムに躍動感が強い事、そしてリアルなノスタルジーを感じさせた前身より幻想的な世界観を持っている事でしょうか。
Detektivbyrånが幼い頃、部屋の隅でおもちゃで遊んでいた時を思い出させるとすれば、こちらは夜寝る前に、窓から見える夜空に空想と夢を膨らませていたような、そういう音と言えるかも知れません。有り体に言って、Detektivbyrånより悲しくない音楽です。
元々のバンド名、Vintergatanはスウェーデン語で天の川。なるほど、という感じです。

CDを手にとってまず驚いたのは、封入されていた手書きのメッセージカード。
しかも紙もハサミで切ったような痕跡が見られる、手作り感溢れるものです。
更にアルバム自体も手作り感満点のCD-Rっぽいレーベル面にびっくりしますが、盤自体はちゃんと工場でプレスされたものなので安心です。

また、数多くの楽器が使用されていますが、クレジットによれば1、4、6、9曲目ラストのドラムと4曲目の口笛意外は全てMartinの演奏とのこと。物凄いマルチプレイヤーぶりです。
ライヴでは他のメンバーも参加しているわけですが、それでも楽器の持ち替えはかなり忙しいものがあります。
7月7日に配信されたライヴの映像が公式サイトで見られるようになっているので、興味のある方は一見をお勧めします。
1.Sommarfågel (3:52)
オルゴールの奏でる切ないメロディが躍動感のあるドラムンベースを導く代表作。
6/8拍子にシンコペーションを交えたリズムが独特の揺らぎを生み出していて面白い。
オルゴールを伴奏にしたアコーディオンのソロから一気に走り出す場面が鳥肌もの。

2.The Rocket (3:31)
今度は3/4拍子でアコーディオンの伴奏に乗ってModulinなる奇妙な楽器がリードする哀愁のナンバー。
前曲よりかなりフォークミュージック的。ヨーロッパの雑踏を思い浮かべそうになる。

3.Valentine (3:58)
アルペジエイターを用いたエレクトロニカなシンセを支えるのはタイプライターの音が刻むリズム。
前奏が終わるとグロッケンも入るが、全体的にEDM、ハウス色が強い。このアルバムの中では断トツに普通なダンスミュージック。

4.Slottsskogen Disc Golf Club (3:38)
ヴィブラフォンのアルペジオにダルシマーが物悲しいメロディを奏でる。
2曲目に近い感覚をゆったりさせたようなイメージ。
ヨーロッパ風の哀愁フォークな感じはFlairckにも近い。

5.Biking Is Better (3:28)
再びタイプライターがリズムを刻む。そしてアコーディオンの伴奏にグロッケンのメロディ。
川沿いの景色を眺めながらゆっくり散策でも楽しむような、ゆったり、のんびりな癒しの楽曲。
そして、そこに漂う哀愁がとても良い。

6.Västenberg (4:25)
忙しないリズムで走る様子は1曲目に近い。ただしこっちの方がフォーク風。
前奏のハープや中盤に絡んでくるピアノなど、ここまで見られなかった楽器が印象的な場面を作っている。
後半にはどうしてもヴァイオリンに聞こえるような音が現れるが、アコーディオンでしょうか?

7.Starmachine2000 (4:03)
夢の中で星空に誘われるような、 切なくて、どうしようもなくノスタルジックな名曲。
スライドプロジェクターのリズムに微睡むようなオルゴールの調べが乗れば、もうそこは子供にしか入れない夢の世界。
音楽的にどうこう言うよりも、まずそういう表現が口を突くくらいイメージを喚起する曲です。

8.All Was Well (3:03)
"The Rocket"のテーマをオルゴールのソロでなぞる小品。

9.Paradis (14:10)
ここにきて意外にもニューエイジに近付いた、大まかに4つのパートで構成された大作。
パート1は優雅な中華風のテーマが良い。シンセの音も二胡を意識しているように感じる。
パート2はNHKスペシャルか何かで流れそうなくらい雄大で感動的。S.E.N.S.や喜多郎にも通じる世界観。
パート3では最初のテーマを回想しながら、かき鳴らすオートハープと共にシンセソロが翔る。
徐々に力を増してくるリズムに乗って、伸びやかに歌うベースが気持ちいい。
それを受ける穏やかなアンサンブルを経て、最終パートではまさかのヘヴィロック化。
唸るギター、ベースと力強いドラム、それを貫くテルミンのソロ、どれも凄まじく格好いい。

全ての曲が代表曲と言っても過言ではないくらい質が高いのですが、とりわけシングルの2曲が印象的。
加えてラストの大作は曲調という点で他の曲とは一線を画すものの、完成度が高く何度聴いても飽きない傑作。
エレクトロニカながら、いわゆるダンスミュージックではなくフォークダンス的な素朴な音楽性がベースにあるのが特徴的。
9曲中6曲が三拍子系というのもその表れな気がします。
美しいだけでなくリズムの躍動感が際立っているのが他の同ジャンルと比べた特色。
そして全体を通して一貫しているのがノスタルジックで切ない空気。
これを気持ちよいと思う人なら間違いなくはまるはず。
収録時間は45分程度と短めですが、ちょっぴり涙を誘うインストゥルメンタル音楽として間違いなくお勧めできます。
中毒注意。

Comments

Popular posts from this blog

月からの新しい知らせ

「優しい音楽会」放送お疲れ様でした。

深夜廻~メインテーマ~