Porcupine Tree/Fear Of A Blank Planet

何から書き始めたものかと迷っていたのですが、これを最初にします。
Porcupine Treeの"Fear Of A Blank Planet"です。

ネット各所のレビューを見てみると見事なまでの賛否両論っぷり。
ProgArchivesでは評価が下がるごとにレビューの数も少なくなっていくカーブになっていますが、最低点までしっかり存在する時点で同様。

全体的な評価で言えば、前作と比べてアルバム全体の音に統一された色合いがある。それと暗い。前作の"Lazarus"みたいなほっとさせてくれる曲はないし、聞き終わった後で口ずさむようなメロディも多くはない。
少なくとも、音に関する限りとても一般に勧められる内容にはなっていない。

さらに言えば、歌詞に関してはもっと一般には勧められない。
内容は引き籠もりの少年(と判断する)の物語。そこまでは自明だったのだけど、何となく歌詞を見てて最終曲に目がいった瞬間、ぞくっとした。
違う解釈をしている人も多いようだけど、僕にはこの歌詞はどう見ても自殺、もっといえば心中を仄めかしているように思えたからだ。
残念ながら国内版の日本語訳は(実はこの解釈に依らなくても)誤訳が割とあり、多分このような解釈に行き当たるのは原文で読んだ人だけだと思う。


で、音楽について言えば冒頭に書いたとおり。
前作が結構なバリエーションを持った曲を揃えて熱気も十分に劇的な物語を紡いで見せたのと比べると、熱はすっかり冷めて曲の色合いも褪せた感じが無くなった代わりにやたら暗くなり、色相も少なくなったイメージ。
そのためにヘヴィな音とアコースティックな音の対比は見せても終始一貫して「鬱」な感触は続くし、曲展開も「ここで盛り上がるぞ」と思ったらそのまま収束していったりする。
この点で好き嫌いはかなり分かれそうだと思うけれど、じゃあ出来が悪くなったかと言えばそんなことはなく、間違いなく「傑作」と呼んで良い内容だと思う。
この異様なほど鬱屈した内容にはこういう煮え切らない音が似合うと思うし、一部レビューで言われていた世界観的なスケールなどはここでは問題にもされていないに違いない。
今までのように屈折から広げて広げて、確かに存在は感じるのだけど何処だかわからないせかいに連れて行かれるような感覚とは対照的に、やたら身近に生々しく感じるのに現実感がまるでないというこの感覚は、本作のテーマとぴったり一致するような気がする。
目の前の現実から逃避したくても逃げられず、エネルギーが内へ内へと向かっている感じというか。
何より、今の社会はこのような作品を受容する状態にある、と認識させられた点で、忘れられない作品になった。
ついでに言えばテクニカルで精緻な面は今まで以上に強く押し出されている。

曲について挙げるならやはり三曲目の大作。
冒頭、ドラムのうまいPineapple Thiefのような演奏、歌唱が良い感じと思っているといきなりヘヴィに攻めたりドラムが暴れたり、突然落ち込んだりと聴いてて落ち着かない事極まる。
二曲目と四曲目の叙情的なバラード系の曲も基本的に鬱なトーンを崩さない上に広がりもなく、妙な気分になる。
五曲目ではよくわからない形でロバート・フリップが参加。前半の物悲しいヴォーカルパートからヘヴィな後半への展開がよろしい。心臓に悪いけど。
最終曲は後半のストリングスが凄い。かなりの圧迫感があるが、このストリングスがふっと消えてドラムの一撃で締めるエンディングに妙なカタルシスあり。
なぜか最後になったが、一曲目のタイトル曲は比較的前作と近い位置にある。色合いを変えてシンプルにまとめた感じ。

補足として、前述のRobert Frippの他RushのAlex Lifeson、おなじみのJohn Wesley、更にストリングス・アレンジにDave Stewartとゲスト陣が相当に豪華なのもポイント。
まあ、一番目立つのはDaveかも、と思うくらい各人ともあまり前には出てこないのですが。

感覚的に、Pineapple Thiefの"10 Stories Down"を聴いた時に近い感覚がありました。
音楽的な変化という点では"10SD"から"Little Man"の変化により近いと思うのですが、聴いた時の「あれ?」みたいな感覚が。

1. Fear of a Blank Planet (7:28)
2. My Ashes (5:07)
3. Anesthetize (17:42)
4. Sentimental (5:26)
5. Way Out of Here (7:37)
6. Sleep Together (7:28)

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